業務の属人化を解消する4つの成功事例|可視化から標準化まで実践ポイントを解説
2025.06.06

業務の属人化とは、特定の社員だけが業務知識やスキルを持ち、その社員がいなければ業務が滞ってしまう状態を指します。特定の社員にしかできない業務が増えるほど、その社員の不在時や退職時の業務停止リスクが高まり、組織の脆弱性につながります。実際に、人材の流動性が高まる現代において、この属人化は企業存続を脅かす重大なリスク要因となっています。本コラムでは、属人化の解消に成功した企業の実践事例を紹介しながら、すぐに取り組める具体的な解決策について解説します。
属人化の4つのリスクと解消の重要性
業務の属人化は企業にとって主に4つのリスクをもたらします。
- ♦ 業務継続リスク(特定社員の不在で業務が停止)
- ♦ 品質低下リスク(知識・経験が共有されず、業務品質にばらつきが発生)
- ♦ 成長阻害リスク(ノウハウが個人に閉じられ組織の進化が停止)
- ♦ 過重労働リスク(特定社員への負担集中で疲弊・退職)
上記に加えて、DX推進においても、属人化はデジタル変革の大きな障壁となります。業務プロセスが標準化されていなければシステム化も困難で、暗黙知が蓄積された状態ではデジタルツールの効果的な導入も阻害されるためです。
しかし、これらを解消することで、業務の安定稼働、品質の標準化、イノベーションの促進、働き方改革の実現といった複合的なメリットが得られます。
このような背景から、企業成長において属人化の解消は緊急かつ必須の課題となります。多くの企業がこの課題に直面していますが、効果的な取り組みにより解決に成功した事例から、具体的な解消法を学ぶことができます。以下に、さまざまな業種・業態における成功事例を紹介します。
属人化の解消に関して詳しくは「属人化解消の具体的な進め方|リスク分析から効果的な対策まで」もご覧ください。
事例1.前任者のノウハウをマニュアル化して属人化を解消
個人・企業向けにさまざまな保険・金融サービスを提供している富国生命保険相互会社の不動産部では、不動産管理業務のシステム対応を外部委託していたため、操作上の不具合や改善が先送りになる課題を抱えていました。また、前任者が作成した引継ぎ困難なEUCシステムが存在し、業務の属人化が課題となっていました。
そこで、EUCアドバイザリーサービスを導入し、EUCシステムの企画・開発支援、運用支援、統制整備の幅広い支援を行うことで、業務担当者によるEUCシステムの効果的な活用が可能になりました。特に前任者が作成した引継ぎ困難なEUCシステム自体の再構築や、実務に即した担当者のITスキルアップ支援、ドキュメント整備などを実施しました。
属人化を解消したことで、以下の成果が得られました。
- ♦ サービス導入後、1年半で積み残し案件の100件以上が解消され、業務が大きく改善
- ♦ 引継可能範囲を広げ、通常業務・決算業務等に支障が生じる危険レベルから脱却
- ♦ 従来の外部委託システム開発と比較して7割にも及ぶコスト削減効果
- ♦ EUCシステムの一元管理による情報共有の促進
- ♦ 業務担当者によるEUCシステム事例の共有会の開催により、現場全体で課題解決に対する前向きな意識が醸成
このように、EUCシステムの導入とそれに伴う業務プロセスの見直しにより、属人化を解消するとともに現場の業務改善意識の向上にも繋がりました。
EUCに関して詳しくは「EUCとは?業務効率化を実現する仕組みと導入ステップを解説」もご覧ください。
富国生命保険相互会社不動産部様の事例「ビジネスを進化させる現場発の業務改善、EUCアドバイザリーサービス」
事例2.決算業務の属人化を解消しDXを推進
業務効率化を実現するため必要となる、3つの視点と具体的なアプローチを紹介します。
自動化による定型作業の削減
花王グループの会計財務部門では、決算業務の属人化が課題となっていました。社員ごとに作業プロセスが異なるため、テレワーク環境での「業務の可視化・標準化・自動化・統制強化」の壁にもなっていました。
そこで、クラウド型決算プラットフォームを導入し、業務の標準化を推進しました。これにより、個人の暗黙知に依存していた決算業務が明文化され、誰でも同じ品質で業務を遂行できるようになりました。
属人化を解消したことで、以下の成果が得られました。
- ♦ 業務の標準化により品質が安定
- ♦ 在宅勤務率80~90%を実現したことで働き方改革が推進
- ♦ 初期導入者が事務局となって工場や子会社50人への横展開も進み、全社的な業務改革へと発展
- ♦ 引継ぎやオンボーディングの効率化、人員配置の柔軟性向上など、組織力が向上
このように、属人化の解消はDX推進の基盤となり、企業全体の変革に繋がります。
出典BlackLine Japan株式会社, 「花王株式会社 導入事例」, BlackLine導入事例, 参照日2025年4月8日
事例3.融資管理システムで属人化を防止し業務を効率化
欧州・中東・アフリカ地域における投融資・M&A等のサービスを提供するDBJ Europe Limitedでは、金融ニーズの多様化に伴う取り扱い案件の増加により、業務の属人化が課題となっていました。契約ごとに必要な書類を個別にExcel管理していたため情報が拡散しており、さらに担当者ごとに作業フローが異なっていたため作業フローが安定していませんでした。
そこで、EUCアドバイザリーサービスを活用して融資の案件管理システムを導入し、データの一元管理と業務フローの確立化を実現しました。入金、仕訳、支払などの融資管理業務を一元化し、入金手続き等の期日データをスケジューラーと連動させることで、これまで統一されていなかった契約ごとのファイル管理・運営を統一化しました。
属人化を解消したことで、以下の成果が得られました。
- ♦ 期日管理が徹底され、見落とし等のヒューマンエラーの防止を実現
- ♦ ファイル作成者に依存しない業務体制を構築
- ♦ 業務の棚卸しによる効率的な業務フローの確立
- ♦ 融資管理データと会計・財務データの連携活用が可能に
- ♦ さまざまな切り口でレポート出力ができるようになり、管理業務の精度が向上
このように、融資管理システムの導入により、属人化を防止するとともに業務効率化と管理精度の向上という二つの成果を同時に達成することができました。日本とロンドンという物理的な距離がある中でも、業務の標準化と一元管理を実現した事例です。
DBJ Europe Limited社の事例「ヒューマンエラー”ゼロ”と企業発展の一押しを実現する融資管理システム」
事例4.教育計画の組織的展開で技術の属人化を解消
船舶のキズや劣化状況を調べる「非破壊検査」を主事業とするテクノス三原株式会社では、業務多忙を理由に若手社員への技術教育の時間が十分に確保できていませんでした。また、スキルアップが個人任せになっており、チーム全体で不足する技術と個人のスキルアップ目標の間にズレが発生するという、技術の属人化の課題がありました。
そこで、スキルアップを個人任せにせず、チーム全体で時間を生み出し、必要な技術等を見極めて最短教育を実施する取り組みを行いました。具体的には、業務の洗い出し、現状管理と時間の捻出、計画的教育の実施の3つのステップで進め、「日々の小さな育成」と「スキマ時間でできる細分化した教育」を組み立てる方法を採用しました。
属人化を解消したことで、以下の成果が得られました。
- ♦ チームにとって本当に必要な技術が明確になり、技術力の底上げにつながった
- ♦ チームメンバー間での残業時間の偏りが直され、チーム内の協力体制が強化された
- ♦ 業務が集中しているメンバーの技術・知識の共有点を明確にすることで、技術の分散化を実現
- ♦ 忙しい日常でも隙間時間を活用した効果的な教育プランにより、継続的なスキルアップが可能に
このように、教育計画を組織的に展開することで、技術の属人化を解消するとともに、チーム全体の技術力向上と業務の効率化を達成しました。特に、現場で技術教育の時間を確保することが難しい企業にとって、効果的な事例と言えます。
出典広島県 働き方改革推進・働く女性応援課 「働き方改革 取組マニュアル・事例集」, 参照日2025年4月18日
属人化を解消するためのポイント
属人化を解消するポイントを解説します。
業務の棚卸しと可視化
属人化解消の第一歩は業務の棚卸しを行い「業務の可視化」をすることです。特定の社員しか理解していない業務フローや判断基準を明確にすることで、どこに属人化のリスクがあるかを特定できます。業務の標準化を進め、ノウハウを蓄積・共有する仕組みを整えることが重要です。可視化されたプロセスを基に、標準的な業務マニュアルを整備し、複数の担当者で共有することで、個人に依存しない体制が構築できます。
業務の棚卸しに関して詳しくは「業務の棚卸しの進め方|5つの手法と実践ステップを解説」もご覧ください。
デジタルツールの戦略的活用
属人化解消には、ITツールの活用も有効です。例えば、タスク管理ツールは業務進捗の管理が簡単にできます。コミュニケーションツールは、リモートワークにおけるメンバー間のスムーズな情報共有を支援するでしょう。成功事例でも見られるように、EUCシステムやERPシステム(経理、在庫管理、CRMなど経営資源を管理するシステム)の導入により、データの一元管理や業務フローの統一化を図ることができます。これにより、個人の暗黙知に依存していた業務が明文化され、誰でも同じ品質で業務を遂行できるようになります。
EUC活用に関して詳しくは「EUC統制とは?統制のポイント、導入ステップを失敗事例を交えて解説」もご覧ください。
組織文化の変革とチーム力の強化
属人化解消は、単にシステムや手順を変えるだけでは不十分です。組織文化の変革とチーム力の強化が不可欠となります。「個人の専門性」と「組織の共有資産」のバランスを意識し、知識共有を評価する仕組みを取り入れることで、自発的なナレッジ移転が進みます。チーム全体で必要な技術を見極め、計画的な教育を実施することで、個人に偏っていた技術やノウハウを組織全体で共有できるようになります。
段階的なアプローチの実践
属人化解消は一朝一夕には実現できません。まずは業務の棚卸しから始め、優先順位の高い業務から段階的に取り組むことが重要です。小さな成功体験を積み重ねることで、組織全体の改善意識を醸成し、持続可能な取り組みへと発展させることが成功の鍵となります。
属人化を解消するアプローチ方法に関して詳しくは「属人化解消の具体的な進め方|リスク分析から効果的な対策まで」をご覧ください。
属人化解消は、業務の可視化から。段階的な取り組みによる社員の意識改革が成功につながる
本コラムでは、業務の属人化解消に成功した4つの企業事例を通じて、具体的な解決策を紹介しました。属人化の解消には、業務プロセスの可視化と標準化、ナレッジの文書化とシステム化、適切なデジタルツールの活用、組織文化の変革という共通のアプローチがあります。
特に経理部門やバックオフィス業務、専門性の高い業務における属人化解消は、業務効率の大幅な向上とリスク低減をもたらします。中堅企業においては、部門横断的な取り組みと経営層の強いコミットメントが成功の鍵となります。属人化を解消することで、業務効率化だけでなく、残業時間の削減、社員満足度の向上、事業継続性の強化など、多面的な経営課題の解決につながります。DBJデジタルでは属人化課題に対する最適な解決策をご提案いたします。まずはお気軽にご相談ください。