情シス部門が属人化する原因と解消する5つの方法
2025.09.29

情報システム部門において、特定の社員が不在になるとシステム運用に支障が生じる「属人化」は多くの企業で起こりがちな課題です。そして、企業におけるIT活用の重要性が高まる中、この問題は事業継続にも深刻な影響を与える重大なリスクとなっています。昨今のIT人材不足やDXの進展により、限られた人材に業務が集中することで、この問題はさらに深刻化しています。本コラムでは、なぜ情報システム部門で属人化が発生しやすいのか、そのリスクと原因を分析し、5つの解決策を解説します。
なぜ情シス部門は属人化しやすいのか?
まずシステムの属人化とは、情報システムの管理(運用・保守)において、特定の社員しかシステムの詳細な仕様や運用手順を把握しておらず、その社員以外では業務を適切に遂行できない状態を指します。
情報システム部門の属人化の一番の要因は、技術的専門性の高さにあります。ネットワーク設定やデータベース管理、セキュリティ対策などは、高度な技術知識を要求されます。例えば、基幹システムが停止した場合、システムのアーキテクチャを深く理解している担当者でなければ迅速な対応は困難です。
さらに、システム障害の影響範囲の広さも重要な特徴です。一つのシステムトラブルが全社の業務停止につながる可能性があるため、確実な対応ができる経験豊富な社員に業務が集中しがちです。
組織全体の属人化の解消に関して詳しくは「属人化解消の具体的な進め方|リスク分析から効果的な対策まで」もご覧ください。
情シスで属人化が起こる5つの業務領域
情報システム部門において、特に属人化が起こり深刻化しやすい業務領域とその理由を説明します。
ネットワーク監視・保守業務
ネットワークインフラの監視・保守業務は、システム全体の安定稼働を支える重要な業務領域です。ネットワーク構成の複雑さや障害対応の緊急性から、経験豊富な特定の社員に依存しがちです。
業務システム保守開発・カスタマイズ業務
社内の業務システムの保守開発やカスタマイズ業務では、過去の開発経緯やソースコードの詳細な仕様を把握している社員が限られています。例えば、10年前に導入した販売管理システムのカスタマイズ部分について、当初の開発担当者のみがロジックを理解しているといった状況が挙げられます。
データベース管理業務
データベースの設計思想やパフォーマンスチューニングのノウハウは、高度な専門知識を要する領域です。長年蓄積されたデータを扱う基幹システムでは、データ構造の複雑さや業務ロジックの理解が属人化の要因となっています。
セキュリティ対策・インシデント対応
セキュリティ対策は常に進化し続ける脅威に対応する必要があり、最新の知識と豊富な経験が求められる分野です。特にセキュリティインシデントの対応では、迅速かつ的確な判断が必要なため、経験豊富な社員に業務が集中しがちです。
社内ヘルプデスク業務
社内ヘルプデスク業務は、各部署の業務システムや社員のITスキルレベルを幅広く理解している必要があります。長年担当している社員は、過去の問い合わせパターンや各部署の特殊な業務要件を記憶しており、その知識に依存した対応が常態化しています。
システム属人化が引き起こす4つの深刻なリスク
システム属人化は、以下のようなリスクと影響があります。
- 業務継続性の脅威:キーパーソンの不在時にシステム障害対応ができず、事業停止リスクが発生
- 知識・ノウハウの消失:長年蓄積された技術知識や障害対応ノウハウが退職とともに失われる
- セキュリティインシデント対応の遅延:インシデントからの復旧やサイバー攻撃時の初動対応が遅れ、被害が拡大する
- 組織全体の生産性低下:特定社員への業務集中により、チーム全体のスキル向上機会が失われる
これらのリスクは相互に関連し合い、一つの問題が他の問題を誘発する悪循環を生み出すため、組織的な対策が不可欠です。特に深刻なのは人材流出による甚大な影響です。情シス部門では一人の退職が組織全体に大きな影響を与え、システム運用の継続性や品質維持が困難になり、結果としてコスト増加や品質低下を招く重大なリスクとなり得ます。システムの属人化は全社的な課題と認識しましょう。
情シスの属人化解消のための5つの方法
属人化問題を解決するための方法論、実装の優先順位とともに解説します。
業務プロセスの可視化と標準化
属人化解消の第一歩は、現在の業務プロセスを客観的に把握し、誰でも実行可能な形に標準化することです。情報システム部門が担当している全ての業務について、「実施頻度」「所要時間」「必要なスキルレベル」「現在の担当者数」を定量的に評価し、属人化の程度を客観的に把握します。
業務量調査や業務の棚卸しに関しては以下もご覧ください。
「業務量調査とは?3つの方法と業務改善への活用ポイントを具体例付で解説」
運用マニュアル・手順書の整備
単なる作業手順書ではなく、システムの設計思想から緊急時の対応まで、業務に必要な知識を包括的にまとめた運用マニュアルを作成します。「なぜその手順が必要なのか」という背景情報も含めることで、マニュアル利用者の理解を深め、応用力を養えるような内容にします。
複数人でのスキル共有体制構築
重要な業務について主担当者と副担当者を明確に定め、副担当者が主担当者の業務を代替できるレベルまでスキルを習得する仕組みを構築します。月に1回の技術共有セッションを開催し、各担当者が自分の専門分野についてプレゼンテーションを行い、実践的な知識の移転を図ります。
システム化・自動化による作業効率化
定型的な作業や監視業務については、ITツールやシステムを活用した自動化により、属人化のリスクを根本的に解決します。EUCの活用も効果的です。システム監視業務では、監視ツールの導入により自動化し、異常検知時には自動的にアラートが発信され、経験の浅い社員でも適切な初動対応が可能になります。
EUCに関して詳しくは「EUCとは?業務効率化を実現する仕組みと導入ステップを解説」もご覧ください。
外部パートナーとの連携強化
社内リソースだけでは対応が困難な専門領域については、外部の専門パートナーとの戦略的な連携により属人化リスクを軽減します。単純に業務委託するのではなく、自社だけでは気づけなかった属人化の課題を特定したり、社内の技術力向上も視野に入れた協力関係を構築することが重要です。また定型化された業務や下流業務については外部委託で社外へ切り出すことも有効です。
業務改善コンサルに関しては「業務改善コンサルティングとは?メリットや進め方、会社選びを解説」もご覧ください。
属人化解消で実現する情シス部門の理想的な働き方
情シスの属人化解消について詳しく解説してきましたが、この問題の背景には情シス部門特有の構造的課題があります。高度な技術的専門性が求められる業務特性上、属人化が発生しやすく、その結果として人材流出の影響が他部門より深刻になってしまいます。一人の退職が組織全体のシステム運用を脅かし、コスト増加や品質低下を招くリスクを踏まえると、属人化解消は経営戦略として優先的に取り組むべき課題です。
そのため、属人化解消は業務リスクの軽減だけにフォーカスせず、情シス部門の働き方改革を同時に実現することが重要となります。例えば、業務効率化による負担軽減や明確なキャリアパスの提示、本業部門と同等の待遇・評価制度といった取り組みにより、情シス業務のやりがいも向上させることができます。情シス部門は企業の本業を支える重要なインフラ部門であり、本業と同じく評価され、注目されるべき価値ある職種なのです。
情シスの属人化対策によって安定稼働と働き方改革を推進させよう
情報システム部門の属人化は、段階的にアプローチすることで解決していくことができます。最も重要なのは、属人化解消を継続的な組織改善活動として位置づけることです。業務の標準化、ドキュメント整備、スキル共有、自動化推進、外部連携の5つの方法を組み合わせることで、持続可能で安定したシステム運用体制を構築できます。
DBJデジタルでは、情報システム部門の属人化解消に向けた包括的なコンサルティングサービスを提供しており、貴社固有の課題に応じたソリューションをご提案いたします。システム運用の安定性向上と組織力強化を同時に実現されたい企業様は、ぜひお気軽にご相談ください。