IT統制とは?の基本と実践ガイド|企業のデジタルリスクを効果的に管理する方法

2025.07.12

デジタル化が進む現代のビジネス環境において、企業の情報資産やITシステムの適切な管理で重要視されるのが「IT統制」です。近年のサイバーセキュリティ脅威の増大や個人情報保護法の強化などを背景に、IT統制の重要性はますます高まっています。本コラムでは、IT統制の基本概念から実践方法を解説します。

IT統制とは?基本概念と重要性

IT統制とは、企業がITを活用するうえでの方針や手続きを定め、それらが適切に実行されるようにするための管理体制のことです。具体的には、情報システムの開発・運用・保守に関するルールの策定や、ITシステムへアクセスする権限(アクセス権限) の管理、システム変更時の承認プロセスなどが含まれます。

内部統制との関連性

IT統制は内部統制の一部であり、特にITに関連する領域に特化したものです。内部統制が企業全体の業務プロセスの健全性を確保するための仕組みであるのに対し、IT統制はその中でもITシステムに関する部分に焦点を当てています。

なぜIT統制が必要なのか

IT統制が必要とされる理由は主に三つあります。一つ目は、ITシステムの複雑化に伴うリスクの増大です。二つ目は、金融商品取引法(J-SOX)や個人情報保護法などの法規制への対応です。三つ目は、ITシステムの障害がビジネスに与える影響が年々大きくなっており、適切な統制なしではビジネスの持続的運営が難しくなっているためです。

IT統制を行わないことで発生するリスク

IT統制を行わないことで発生するリスクを解説します。

セキュリティリスク

IT統制が不十分な企業では、情報漏洩やサイバー攻撃などのセキュリティインシデントが発生するリスクが高まります。適切なアクセス権限管理やセキュリティ対策が行われていない場合、内部の不正による機密情報の漏洩や不正アクセス、ランサムウェアやマルウェア感染といった深刻な事態を招く可能性があります。近年のセキュリティインシデントの増加と被害の深刻化を考えると、IT統制によるセキュリティリスクのコントロールは企業の存続にも関わる重要な課題です。

コンプライアンスリスク

IT統制の不備は、各種法令や規制への違反リスクを高めます。例えば、個人情報保護法や金融商品取引法(J-SOX)などの法令遵守が求められる中でIT統制が機能していなければ、決算数値の不備や誤送信による情報漏洩等、データの不適切な取り扱いや財務報告の信頼性低下などの問題が生じる可能性があります。法令違反が発覚した場合、罰則や行政処分を受けるだけでなく、社会的信用の失墜や株価の下落など、企業経営に大きな打撃を与えるリスクがあります。

業務効率低下と事業継続リスク

IT統制の不備はシステム障害や人為的ミスを招きやすく、業務の非効率化や停止につながります。特に基幹システムの障害は、生産活動や販売活動の停止、顧客対応の遅延など、事業継続に直接的な影響を及ぼします。また、システム変更時の不適切な管理はデータ破損や機能不全を引き起こし、業務プロセス全体に混乱をもたらす可能性があります。業務でITツールの使用が必要不可欠となってきている現代企業において、適切なIT統制は事業継続能力(BCM)の重要な要素となっています。

IT統制の種類と実践領域

IT統制は、その対象範囲や目的によって複数の種類に分類されます。それぞれの特徴を理解することで、自社に必要なIT統制の枠組みを適切に設計することができます。

IT全社的統制 :全社的なIT統制

IT全社的統制は、組織全体でのITに関する方針や戦略を策定し、その実行を監督する統制です。具体的には、IT投資の意思決定プロセスやITに関するリスク管理の仕組み構築、IT部門に対するモニタリングといった組織的な統制などが含まれます。

IT全般統制:ITシステムを対象とした統制

IT全般統制は、個別のアプリケーションやシステムではなく、IT環境全体に適用される統制です。システム開発や変更管理、システム運用やアクセス管理などの領域をカバーします。例えば、システムの修正・機能追加時の承認プロセスやテスト手順、本番環境へのリリース手順の定義等、企業情報の信頼性を確保するITシステムを適切に運用管理する仕組みのことです。

IT業務処理統制:業務プロセスに関する統制

IT業務処理統制は、特定の業務プロセスやアプリケーション内に組み込まれた統制です。例えば、会計システムにおける入力値のチェック機能や、承認ワークフローなどが該当します。これらの統制は、業務プロセスの中で発生する可能性のあるエラーや不正を防止・発見し、正確に処理・記録されることを担保するための仕組みです。

優先的にIT統制を行う領域

IT統制を行うにあたって特に重要となる四つの領域について解説します。

システムアクセス管理

システムアクセス管理は、「誰が」「どのシステムやデータに」「どのような権限で」アクセスできるかを管理し、不正アクセスや情報漏洩を防ぐための基本的な統制となります。具体的には、IDとパスワードの管理ポリシーの策定、役職・役割ベースのアクセス制御の導入、定期的なアクセス権限の棚卸しなどが挙げられます。

システム開発・変更管理

システム開発・変更管理は、新たなシステムの開発や既存システムの変更を適切に管理するための統制です。要件定義から設計、開発、テスト、本番移行までの各プロセスが適切に実施されることを確保します。特に重要なのは、本番環境と開発環境の分離、変更管理プロセスの確立、適切なテストの実施などです。

システム運用管理

システム運用管理は、日々のシステム運用を適切に行うための統制です。バックアップの取得、ジョブスケジュールの管理、障害対応などが含まれます。例えば、重要データの日次バックアップ取得、月に一度のリストア訓練を定期的に実施することで、障害発生時の復旧能力を高めることができます。

情報セキュリティ管理

情報セキュリティ管理は、情報資産を保護するための統制です。マルウェア対策、ネットワークセキュリティ、物理的セキュリティなど、多岐にわたる対策が含まれます。特に重要なのは、セキュリティポリシーの策定と周知、定期的な脆弱性診断やペネトレーションテストの実施、インシデント対応計画の整備などです。

なお、これらの施策効果を継続的に評価するモニタリング(監視)は、IT統制の有効性を維持するために不可欠です。効果的なモニタリングは内部統制を強化し、全社員の緊張感ある業務姿勢を促します。

効果的なIT統制の実践プロセス

IT統制を行うプロセスを解説します。

ビジネスリスクに基づいたIT統制の優先順位付け

IT統制を効果的に実施するためには、すべての領域を一度に網羅するのではなく、自社の事業特性やリスク状況に応じて優先順位を付けることが重要です。例えば、個人情報を大量に扱う企業であれば情報セキュリティ管理やアクセス管理を、基幹システムの安定運用が重要な製造業ではシステム運用管理を優先するなど、ビジネスへの影響度に応じて優先順位の高いものから対応します。

IT統制の計画立案と体制整備

効果的なIT統制の実現には適切な計画と組織体制の構築が不可欠です。 まず、自社のIT環境の棚卸しを行い、重要なシステムやデータを特定します。次に、それらに対するリスク評価を行い、必要な統制を設計します。この過程では、IT部門だけでなく、現場部門や経営層を巻き込む全社横断的な取り組みが重要です。

内部監査を見据えた証跡管理と文書化のポイント

IT統制の有効性を評価するための内部監査や外部監査に備え、適切な証跡管理と文書化が重要です。特に「何をどのように統制するか」を明確にした文書(統制記述書)の作成・維持管理と、「統制が適切に実施されていることを示す証拠」(統制証跡)の体系的な管理も求められます。

IPO準備企業でのIT統制のポイント

IPO(株式公開)を目指す企業にとって、IT統制の整備は重要な準備事項の一つです。IPO審査では J-SOX法(内部統制報告制度)への対応が求められ、IT統制の有効性もチェックされます。

財務報告に関わるシステムの統制強化

IPO準備企業にとって最も重要なのは、財務報告に関わるシステムのIT統制です。会計システムや販売管理システム、購買・経費管理システムなど、財務諸表の数値に影響を与えるシステムについては、データの正確性と完全性を確保するための統制を重点的に整備する必要があります。

IT統制の文書化と証跡管理

IPO準備企業では、IT統制の整備状況を明確に示すための文書化が特に重要です。主要なシステムごとに「システム概要書」「リスクと統制の対応表」「統制実施記録」などの文書を整備する必要があります。

IPOスケジュールを見据えた段階的整備

IPO準備には通常1〜2年の期間を要するため、IT統制の段階的な整備が必要です。まずは現状のIT環境の棚卸しとリスク評価から始め、重要度の高いシステムから順に統制を整備していきましょう。

適切なIT統制によって企業の信頼性と事業継続が確保される

デジタル化が進む現代のビジネス環境において、適切なIT統制の運用は、ますます重要性を増しています。 IT統制は単なる法令遵守の手段ではなく、企業のリスク管理や経営効率化を実現するための重要な取り組みです。IT統制の構築と運用は一朝一夕には完成しないため、自社の状況に合わせた優先順位付けを行い、段階的に取り組むことが成功のカギとなります。

貴社のIT統制やリスク管理に関する課題解決についてご相談がありましたら、DBJデジタルの専門チームがサポートいたします。お気軽にお問い合わせください。

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