EUC統制とは?統制のポイント、導入ステップを失敗事例も交えて解説
2025.06.06

EUC(End User Computing)の活用は業務効率化に大きく貢献する一方で、セキュリティリスクへの対応が必要です。特に経理・財務・営業部門などでExcelやローコードツールを利用した業務システムが増加する中、適切な管理体制がなければ重大な経営リスクにつながる可能性があります。ここで必要とされるのが「EUC統制」です。本コラムでは、EUC統制の概要から導入ステップまで、企業のリスク管理に欠かせないEUC統制について詳しく解説します。
EUC統制とは?その必要性と基本的な考え方
EUC統制とは、エンドユーザーが独自に開発・運用するアプリケーションやツールに対して、適切な管理と統制を行うための仕組みです。近年のデジタル化により社員自らがシステムを構築する機会が増えたことで、これに伴うリスク管理の重要性が高まっています。
EUCの基礎知識に関して詳しくは「EUCとは?業務効率化を実現する仕組みと導入ステップを解説」もご覧ください。
またEUCの機能に関して詳しくは「EUCの活用で効率化できる業務とは?経理・営業・人事部門ごとの活用テクニックを解説」もご覧ください。
EUC統制が求められる背景と目的
EUC統制が注目される背景には、デジタル化の進展によりITリテラシーが向上した社員が自ら業務システムを構築するケースの増加と、情報セキュリティの重要性の高まりがあります。EUC統制の目的は、エンドユーザーの創意工夫や業務効率化の取り組みを阻害することなく、潜在的なリスクを適切に管理することです。
EUCが抱える潜在的なリスク
企業において、エンドユーザーが作成したExcelファイルやローコードツールで構築したアプリケーションには、計算式やロジックのエラーによる業務上のミス、ファイルの紛失や破損によるデータ消失、バージョン管理の不備による古いデータの使用などのリスクが潜んでいます。こうしたリスク対策のためにも、EUC統制は、企業全体の内部統制の一部として位置づけられます。
EUC統制を行うポイント
経済産業省の「システム管理基準 追補版(財務報告に係るIT統制ガイダンス)」を参考に、EUC統制を効果的に実施するためのポイントを解説します。
EUC管理方針の策定
EUC統制の第一歩は、明確な管理方針の策定です。この方針では、EUCの定義、管理対象の範囲、リスク評価の基準、統制レベルの設定、関係者の役割と責任などを明確にします。全社的な方針として経営層の承認を得ることで、EUC統制の重要性を組織全体に浸透させることができます。
リスクベースドアプローチによるEUC分類
すべてのEUCツールに同レベルの統制を適用することは非効率です。リスクベースドアプローチでは、EUCツールを重要度によって分類し、それぞれに適切なレベルの統制を適用します。例えば、財務報告に直接影響する決算関連のExcelファイルは「高リスク」、部門内での情報共有用のファイルは「低リスク」というように分類します。
同資料のIT基盤質問書の例に「原価計算をエクセルマクロで作成したプログラムで実施している」といった質問があるように、財務報告に直接影響するEUCは特に重要度が高く、厳格な統制が求められます。特に決算数値に直結する計算ロジックを含むEUCツールは、最も高いリスク区分として管理すべきです。
EUC台帳管理の重要性と実践方法
EUC統制の基盤となるのが、組織内で使用されているEUCツールを把握し管理するための「EUC台帳」です。台帳には、ツールの名称、用途、所有者、リスクレベル、統制状況などの情報を記録します。また、情報システム部門が全てのツールを把握し、適宜テストやモニタリングを実施したり、各ツールの使用方法や操作手順の文書化を推進したりする必要があります。
EUCツールの定期的な棚卸と評価
EUCツールは時間の経過とともに増加・変化するため、定期的な棚卸と評価が重要です。少なくとも年に一度は組織全体でEUCツールの棚卸を実施し、新規追加されたツールの登録や既存ツールのリスク区分の見直しを行うことをお勧めします。
EUC利用者の教育とセキュリティ対策
EUC統制を実効性あるものにするには、利用者の教育も欠かせません。特に高リスクのEUCツールを扱う担当者には、適切な作成・利用方法やセキュリティ対策について定期的な研修を実施することで、意図しない誤りや不正を防止できます。また、アクセス権限の適切な設定やパスワード保護といった基本的なセキュリティ対策も確実に実施する必要があります。
EUC統制の導入ステップ
EUC統制を行うための導入ステップを解説します。
アクセス権限設計とセキュリティ対策の実装
EUCツールのセキュリティ対策は、アクセス権限の最適化が第一歩です。例えば、大手小売業のB社では、売上予測に使用する重要なExcelモデルに対して、計算式を含むシートは編集不可とし、データ入力用シートのみ特定ユーザーが編集できる設計としています。また、重要なEUCファイルにはパスワード保護やシート保護機能を活用し、閲覧と編集の権限を分離することも効果的です。
変更管理・バージョン管理の仕組み構築
EUCツールの変更管理とバージョン管理は、データの整合性と追跡可能性を確保するうえで重要です。変更申請・承認プロセスの確立、変更内容の文書化、バージョン番号の管理、変更前後のテスト実施と記録などが含まれます。具体的には、ファイル名に日付やバージョン番号を含める命名規則を定め、変更履歴シートを設けてどの部分をいつ誰が変更したかを記録します。重要な変更は上長の承認を必須とし、承認記録を残す仕組みを確立しましょう。また、ファイル共有サービスの履歴管理機能を活用し、以前のバージョンへの復元も可能にしておくことが望ましいです。
データ品質確保のための検証プロセス設計
EUCツールの信頼性を担保するためには、データ品質の確保が重要です。入力値の妥当性チェック機能の実装、重要な計算結果のクロスチェック、定期的な検証テストの実施などを行いましょう。例えば、入力セルに入力制限(数値のみ、特定範囲内など)を設定し、異常値を自動的に検出する機能を実装します。また、重要な計算結果については、別の方法で計算した結果と自動的に比較し、差異がある場合は警告を表示するような仕組みも有効です。さらに、定期的に(例えば四半期ごとに)テストデータを用いて計算の正確性を検証することで、継続的に品質管理を行うことも可能となります。
バックアップ体制と災害対策
EUCツールの多くは個人のPCやチーム共有フォルダに保存されていることが多く、データ消失のリスクが高いという特徴があります。自動バックアップの仕組み導入やクラウドストレージの活用が効果的です。
重要なEUCファイルは、日次・週次など定期的なバックアップスケジュールを設定し、PC障害や人為的ミスによるファイル損失に備えましょう。また、複数の保存場所(ローカルとクラウド、あるいは複数のクラウドサービス)を活用することで、災害時でもデータ復旧の確実性を高められます。さらに、復旧手順をマニュアル化することで、トラブルが起きた場合も迅速に復旧することができます。
EUC統制における失敗事例と対応策
EUC統制における失敗パターンと対策について解説します。
統制過剰による業務効率の低下
EUC統制の導入において最も注意すべき点の一つが、過度な統制による業務効率の低下です。リスクベースドアプローチを徹底し、ツールのリスクレベルに応じた柔軟な統制を行うことが重要です。例えば財務計算を行う重要ツールと、財務報告に直接影響を与えない部門内の情報共有ツールとで、統制レベルは変わります。企業や部門の実情に応じた、適切な統制運用が重要です。
現場の実態を無視した統制設計
EUC統制が失敗するもう一つの要因は、現場の実務フローや作業タイミングを考慮しない統制設計です。例えば、月次決算時に使用する重要なExcelモデルに対して、厳格すぎる変更管理プロセスを設計すると、締め切りに間に合わないケースが発生します。これには現場担当者を含めた統制設計チームの結成や、統制導入前のパイロット実施と改善サイクルが効果的です。
EUCツールの統制対象漏れと管理不備
組織によってはEUCツールを網羅的に把握できず、重要なツールが統制対象から漏れてしまう場合があります。例えば、経理部門が独自に開発した決算集計用の複雑なExcelが管理外となり、計算ロジックの誤りが発見できなかったケースや、部門間の連携不足により同じデータに対して異なる計算方法を採用したEUCが乱立し、数値の整合性が取れなくなった事例などがあります。これらの失敗を防ぐには、全社的なEUCツール棚卸プロセスの確立や、部門横断的なEUC管理委員会の設置・運用等、組織的な対応が効果的です。
適切なEUC統制が企業の情報資産と信頼を守る
EUC統制は、企業の業務品質向上とガバナンス強化を両立させるために欠かせない取り組みです。特に重要なのは、現場の業務効率を損なわない形でリスク軽減を実現する「バランスの取れた統制」の設計です。企業規模や業務特性に応じたアプローチが効果的であり、専門的な知見に基づいたコンサルティングの活用も有効となります。
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